Master Plan Part2, Yosuke Maeda, CEO of WOTA Corp, October 24, 2026
2018年、私たちは3台の試作機を持って、日本で発生した西日本豪雨の被災地に入りました。昼夜を問わず運用して、生活用水を確保できたのは一つの避難所だけでした。
そこから、小規模分散型水循環システムの開発と製造業化を進めてきました。水をその場で再生し、量産によってコストを下げ、集中型と分散型を最適に組み合わせる。Part 1で示した計画は、今も変わっていません。
その最初の成果は、社会に現れ始めています。
2024年の能登半島地震では、長期間断水した避難所の89%に水循環システムが導入されました。2026年の熊本地震でも、広範囲の避難所や医療・福祉施設で生活用水を支えました。
水の輸送量を約50分の1に抑えることで、従来は提供できる場所が極めて限られていた入浴や手洗いが、現実的な生活インフラになり始めています。
日常の水インフラでも、既存の水道を延伸・更新するより、分散型の方が経済的に合理的な地域が見えてきました。実証も進んでいます。
しかし、世界の水問題を解くには、まだ足りません。
Part 1はこれからも続きます。Part 2では、その技術が社会に広がるために、私が次に実現したい計画を示します。
2050年の世界を考えます。
人口が急増する地域では、水インフラの整備が需要に追いつかない。一方、人口が減少する地域では、利用者が減っても管路や処理施設の更新費用は容易には減らず、一人当たりの負担が増大します。
人口が増える地域では、インフラを整備しきれない。人口が減る地域では、インフラを維持しきれない。
水問題は、水の不足や汚染だけでなく、インフラの持続可能性そのものの問題になっていきます。
必要なのは、人口と需要の変化に合わせて、規模も配置も変えられる水インフラです。
循環・自律・分散で、水インフラを再設計する
人類が必要としているのは、水を遠くから運ぶことではありません。安全で快適な水利用です。
水をその場で再生できれば、水の利用と長距離輸送を切り離せます。
WOTAの原則は、循環・自律・分散です。
循環とは、一度利用した資源を必要な状態に戻して繰り返し使うことです。新たな資源の投入と、利用可能な価値の損失を最小限に抑えます。
自律とは、状態を観測・判断・制御し、人の継続的な介入や外部供給への依存を抑えながら、安全で安定した運用を維持することです。
分散とは、資源の発生場所と利用場所、輸送距離、処理規模を踏まえ、必要な機能を合理的に配置することです。集中型の規模の経済も含め、システム全体を最適化します。
私たちは、この三つを個別に最大化しようとしているわけではありません。
限られた資源とエネルギーから、より大きな価値を生み出すための設計原則です。
WOTAの水循環システムでは、最大98%の水を再生します。
人口密度の低い地域では、既存の管路網の更新に一世帯当たり数十万ドルを要する場合があります。
これに対し、小規模分散型水循環システムは、設備・設置・運用・保守・更新を含めた生涯総費用を、数万ドル台に収めることを目指せる構造を持っています。実際に、集中型より経済的に合理的な地域も現れています。
もちろん、分散型がすべての地域で優れているわけではありません。
既存の水道が合理的な場所では、その能力を最大限に生かせばよい。水道の「代替」とは、水道をなくすことではありません。地域に応じて、集中と分散の最適な組合せを選べるようにすることです。
すでに、その選択が可能な地域があります。
次は、それを世界中の多様な条件で成立させます。
断水しても、生活用水を確保できる社会をつくる
一人が一日に必要とする飲み水は数リットルです。一方、入浴や洗濯などを含む生活用水には、その数十倍の水量が必要になります。
断水した地域へ、この水を運び続けることは容易ではありません。
水を循環させれば、生活用水の輸送量を約50分の1にできます。
私たちは、災害時にも誰もが生活用水を使える仕組みを、全国に築こうとしています。
地震の翌朝。
主要避難所には、あらかじめ配備された水循環システムがあり、その日のうちに安心できる生活用水の拠点が立ち上がる。
避難所の状況が集約され、不足する機材が全国から必要な場所へ届く。各地から集まった訓練を受けた人々が運営し、必要な費用は公的制度で支えられる。
そのための需要算定、配備、運営、広域応援の計画が、平時から自治体の防災計画に組み込まれている。
そして次の災害では、支援を受けた地域が別の地域を支える。
能登半島地震と熊本地震では、広域的な生活用水の確保と、全国の自治体が機材や人員を持ち寄る仕組みを実証しました。今、これを持続的に機能する社会インフラへと発展させています。この原理は国境を越えて応用できます。
一方、複数の大都市圏が同時に被災するような災害では、現在の資機材、供給網、運営体制ではまだ十分ではありません。
技術だけでなく社会全体の供給能力を強化し、災害時の入浴や手洗いを、限られた場所への特別な支援から、全国で再現できる社会インフラへと変えていく必要があります。
水循環システムの製造業化を進め、分散型水インフラの実装を標準化する
世界の水問題を解くには、水循環システムを桁違いの規模で生産できなければなりません。
量産を前提とした製品設計、部品の共通化、製造工程の改善によって、品質を高めながらコストを下げ続ける。
Part 1で示した水処理の製造業化は、今も計画の中心です。
しかし、世界の水インフラを変えるには、製品の大量生産だけでは足りません。
水質の安全性、設計、設置、運用、保守。これらを製品ごと、地域ごとに一から組み立てていては、製造能力が拡大しても、社会への普及には限界があります。
だから私たちは、製造業化をさらに進めると同時に、分散型水インフラの実装そのものを標準化します。
私たちは、水循環システムを開発する過程で、水質等を監視する小型センサーのコストを従来の10分の1から100分の1程度にまで下げてきました。
こうした個々の技術革新を、一つの製品に閉じ込めず、世界中で利用できる共通基盤へと発展させます。
中心となるのは、WOTA Coreです。
水処理・センシング・自律制御を統合し、安全で安定した水利用を実現する。それに加えて、設置、運用、品質管理を共通の標準として体系化する。
現場で得られたデータと知見を、次の製品設計や設置方法、品質、運用の改善へと反映する。
私たち自身の量産能力を高めると同時に、世界中のメーカーがWOTA Coreを活用し、それぞれの地域に適した水循環システムを製造できるようにする。さらに、多様な事業者がその設置・運用を担えるようにします。
製品が増えるほど、量産によって製造コストが下がる。
実装が増えるほど、技術と標準が進化し、次の実装に必要な費用と時間が下がる。
そして、より多くの企業や技術者が参加することで、生産能力と社会実装能力がともに拡大していく。
製造業の規模の経済に、社会実装の規模の経済を重ねる。
私たちは、水循環システムの大量生産に加え、世界中の企業や技術者が製造・設置・運用・改善に参加できる基盤を提供し、水問題解決を加速させます。
資源を循環利用する方が合理的な社会をつくる
水を再生することと、有機資源を土壌へ戻すことには、共通した考え方があります。
資源を、必要な場所で、必要な状態へ変換することです。
これまで人類は、資源を安全に処理するための優れた技術を発展させてきました。
燃焼は衛生的な減量と熱回収を可能にし、排水の生物処理は水質と生活環境を守ってきました。しかし、その過程では、別の用途に利用できた炭素や窒素も失われています。
これまでの技術の役割を維持しながら、資源としての価値をどこまで残せるか。
何を分解し、何を残し、どこへ戻すか。その選択によって、必要なエネルギーも、輸送距離も、最終的な資源価値も変わります。
私は、従来の数倍の栄養塩を資源として利用し、処理に必要な外部エネルギーを10分の1以下に抑えられる可能性があると考えています。
日本では、排水処理で回収される有機物や栄養塩を含む資源のうち、肥料として利用される割合は約10〜15%にとどまっています。一方、農業に必要な肥料原料の多くを海外に依存しています。
排水処理由来の有機資源や家畜排せつ物を、土壌や作物にとって価値の高い資源に変え、近隣の農地で利用する。安全性、品質、エネルギー、輸送費を含めて経済的に成立すれば、従来は処理に費用を要した物質が、農業を支える資源へ変わります。
水の循環で獲得した技術や実装能力を、有機資源の循環へ広げる。
水から始めた問題解決を、資源利用の別の領域でも成立させる挑戦です。
水、エネルギー、食料、空気、物質。
これらは自然界で相互に結びつき、互いに影響を与えています。しかし、人類はそれぞれを異なるインフラと産業、制度によって扱ってきました。
WEFAM(Water, Energy, Food, Air, Materials)は、それらを独立した資源としてではなく、相互の変換と利用の関係から捉え、資源利用の仕組み全体を再設計する構想です。
UN 3.0
世界には、人類の課題を解くための技術も、資本も、人材も存在しています。
しかし、それらが存在することと、必要な場所で機能することは違います。
水問題は、その典型です。
水処理技術を持つ企業、インフラを運営する事業者、制度を担う政府、資金を供給する金融機関、そして地域の人々。それぞれの能力が、問題解決のために組み合わされなければなりません。
WOTAが目指すのは、それらを一社に集めることではありません。
世界中の主体が計画をつくり、実行し、結果を共有し、次の改善へつなげられるようにすることです。
災害時の自治体間の互助は、その小さな原型です。
この仕組みが水という一つの課題で世界規模に成立すれば、他の資源問題や人類課題にも広がる可能性があります。
国家や国際機関に取って代わるものではありません。国境を越えた人々や組織が、それぞれの能力を持ち寄り、共通の課題を解決する共同体。その先に、既存の制度を補完する新しい公共性が生まれます。
私は、その未来の一形態をUN 3.0と呼びます。
Part 1で示した到達点は、引き続き追求します。
それは、利用者が大きな初期投資を負担せずとも、小規模分散型水循環システムを導入できる状態です。装置の価格だけでなく、設置、運用、保守、更新、そして資金調達の仕組みまで含めて実現します。
Part 2で私たちが進めるのは、その先にある3つの計画です。
- 1.災害時の生活用水を、全国の地域が備え、互いに支え合う社会インフラにする。
- 2.水循環システムの製造業化を進め、その実装と改善が世界中で広がる仕組みをつくる。
- 3.水で得た能力を有機資源へ広げ、資源を循環させる方が合理的な条件をつくる。
2050年、人口が増える地域でも、減る地域でも、誰もが安全で快適に水を使える社会を実現する。
そのために、水循環を世界中で経済的に合理的な選択肢にする。
そして、水から始まるこの挑戦を、資源の再生へ、さらに国境を越えた新しい公共性へと広げていく。